田中けんWeb事務所

江戸川区議会議員を5期18年経験
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日刊田中けん

高速道路の無料化の核心は、料金所撤廃にこそある

週刊実話 1/7・14合併号 P90
「森永卓郎の“経済千夜”一夜物語」より


 4月から始まる高速道路の無料化がどうなるのか。一向に具体案が見えてこない。混乱の原因は、国土交通相が要求した6000億円の無料化のための予算に対して、藤井財務大臣が大幅な削減を示唆したことだ。いかに民主党のマニフェストに盛り込んだ重要施策と行っても、財政事情がこれだけ厳しくなると、とても全額は認められないというのだ。鳩山総理も、高速道路無料化は「必ずしも国民に人気がない」と発言しているため、予算の減額は避けられない情勢だ。
 それでは、どのような形で高速道路の無料化が始まるのか。当初は、北海道と九州限定で無料化をスタートするのではないかと言われていた。ところが、その案は消えたようだ。
 12月6日に国土交通相の馬淵澄夫副大臣は、共同通信のインタビューに対して、「高速道路無料化の社会実験は日本全国が対象に入ってくる」と答えている。つまり、一部の地域限定ではなく、本州も含めた全国の路線から無料化する区間を選ぶというのだ。馬淵副大臣は、「高速道路無料化の社会実験は渋滞などの影響を見極めるために行うものだから、全国各地で試行しなければ実験の意味がない」と強調している。
 すでに東名高速や名神高速など、幹線の無料化は先送りされる方針が明らかになっており、予算圧縮の影響もあって、全国の高速道路に短距離の無料区間がたくさん誕生することになりそうだ。
 しかも、前原誠司国土交通大臣は、12月10日に毎日新聞のインタビューに答えて、「無料化される区間では、ETC機器を搭載していない車の通行も、無料化の対象とする」という方針を明らかにしている。
 しかし、この社会実験のやり方はいかがなものだろうか。私は、このやり方では高速道路無料化のメリットが出てこないと思う。その理由は第一に、料金所を廃止することができないことだ。無料区間の料金所を廃止すると、高速道路はつながっているから、有料区間を走ってきた車が料金を支払わずに、料金所のないインターチェンジから降りてしまうのだ。高速道路無料化の重要なメリットは、料金所をなくすことで、料金所に関わる経費や人件費を削減できることだ。つまり短距離での無料化では、その効果を検証することができないのだ。
 もう一つ、検証できない高速道無料化の効果がある。それは、高速道路の出入り口を増やすことによる経済効果だ。料金所を造るためには、大きな面積の土地が必要なうえに、様々な設備が必要だから、簡単に料金所を造ることはできない。ところが、高速道路が無料になれば、単に出入り口と合流車線を整備するだけでよいから、多くの出入り口が作られ、それが地域経済の活性化に役立つのだ。
 そうした効果は、九州や北海道といった、まとまった地域で社会実験をやれば、検証できるのだが、今の案では検証できないのだ。だから、国土交通省は、高速道路無料化の効果をわざわざ否定するように動いているとしか思えない。
 何故、そんなことをするのか。理由は不明だが、ETCに利権を持つ官僚や業界は、九州や北海道全体での実験には絶対に反対だろう。なぜなら、一度料金所とETCゲートを廃止してしまうと、仮に政権が自民党に戻ったとしても、高速道路の再有料化は、まず不可能になるからだ。
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 森永卓郎氏はとても良い点を指摘している。簡単に高速道路の無料化とは言っても、車を使う人間は様々な税金を払っている。ガソリン税が、1リットルあたり60円前後だから、燃費が10㎞/リットルの車が、一般道を普通に走ったとしても、1㎞あたり6円の税金を支払っている計算になる。よって、重量税、自動車取得税、自動車税などを除いて考えても、日々の利用だけで税金は払っているのである。それは無料の高速道路を通行したところで、全く同じ事情であり、正確に言うと、高速道路の無料化とは、無料化でも何でも無い。ただ、高速道路を乗る度に通行料金を支払わなくて済むということで、表層的には無料で高速道路を乗り降りできるように見えるだけのことだ。ただし、その違いがとても大きい。
 根本的思考に立ち返ってみれば、その都度料金を支払う必要がないように、関所となる料金所を撤廃することこそ、高速道路無料化の核心だと言える。森永卓郎氏は、その点を良く理解している。

 確かに政府が心配するように、全国的な無料化、または低価格化でなければ、国民全体が、高速道路の無料化というマニフェストの利益を享受できない。その不満を恐れての広く薄くという対応なのだろうが、実際に、高速道路の無料化をより効果的に享受しようと思えば、氏の説どおり、広範囲にわたって無料化を実施してこそ、その社会的効果は大きいと言えるだろう。

 高速道路の無料化、もとい料金所を撤廃することで、料金所とETCに関わる利権や人件費を削減することができる。脱官僚を掲げる政党は、その点を良く見極めて、高速道路問題については取り組んでいただきたい。わざわざ官僚の天下り先を温存することが「脱官僚である」とはとても言えない。
 この様に官僚がストーリーを書いた無料化路線に乗って話を展開しようとするから、多額の予算が必要となって、高速道路の無料化が潰されていくのである。
 根本に立ち返って、料金プール制を廃止しなければならない。そうすれば、東名や名神のような主要高速道路が直ちに無料化して、逆に地方の高速道路は有料化のままになる。なぜならば、すでに償還したところを順々に無料化していくのが、本来の約束であり、プール制の考え方は、あとから出てきた考え方だからだ。予算は一円もいらない。同時にプール制の廃止は、新規高速道路路線の建設も、現在建設中の高速道路も中止せざるをえないように追い込んでいく。財政が厳しいというのであるならば、こここそが重要なのである。
 そうするとどうなるだろうか。当然、通行料が少ない地方の高速道路はたとえ開通から30年経とうが決して償還はしない。つまり赤字のまま無料開放されるわけである。今までの自民党政権による高速道路行政のつけを払うのは、国にせよ、自治体にせよ、結局は公の部分が担うことになるだろう。この様に運営の責任を明確にして、無料化を進めなければ、延々と利用者から通行料を取ろうとする発想は消えて無くならない。

 官僚たちが脚本を書いて進めてしまう高速道路の無料化が、いかにダメかおわかりいただけただろうか。高速道路無料化の本質は、料金プール制の廃止にある。ここをおろそかにして、表層的な高速道路の無料化を推し進めようとしても、きっと今回のような財政的な問題につきあたって、破綻してしまうことだろう。
 官僚とはなんと狡猾なのだろうか。民主党政権になって、高速道路の無料化が方針として決まるやいなや、それには面従腹背を決め込んだようだ。高速道路が無料化できるような「絵に描いた餅」を提出し、このようにすれば、無料化が実現できますと民主党に進言したのだろう。それも莫大な予算が必要となる案を。それによって、高速道路の無料化ができないということを官僚自らが言うのではなく、民主党政権そのものに、言わせてしまおうという魂胆である。さすがに日本で一番頭がいい人たちの集団である。
 このような官僚の手の上で踊らされての、高速道路の無料化ではうまくいくはずがない。これからは、民主党政権が、このようにやってはいけないという、反面教師たる高速道路の無料化政策を実現してくれることだろう。
 我々はその反面教師をじっくりと観察して、どうしたら真に高速道路の無料化が実現できるのかを一緒に考えていかなければならない。真打ちは、じっと出番を待つことにしよう。


2009年12月25日