田中けんWeb事務所

江戸川区議会議員を5期18年経験
巨大既存権益組織に斬り込みます!

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日刊田中けん

国選弁護報酬に関する根本的な問題を解決せよ

2010年2月25日23時42分 asahi.comより


 捜査段階の容疑者に国費で弁護士をつける「被疑者国選弁護制度」で報酬を水増し請求したとして、岡山県警捜査2課は25日、元検事で岡山弁護士会所属の弁護士、黒瀬文平容疑者(68)=鳥取県倉吉市生田=を詐欺容疑で逮捕したと発表した。県警の説明によると、黒瀬容疑者は「接見回数に応じて報酬が支払われるとは知らなかった」と容疑を否認しているという。


 発表によると、黒瀬容疑者は接見回数に応じて報酬額が算定されるのを知りながら、2007年3月下旬~08年5月中旬、担当した強盗など7件の刑事事件について、接見回数を23回水増しした虚偽報告書を日本司法支援センター(法テラス)に提出し、本来の報酬額より約31万円多い計約78万円をだまし取った疑い。


 黒瀬容疑者が担当した事件の報酬が多いことに気づいた法テラスの調査で、不正が発覚。09年2月、法テラスは同容疑者を3年間の国選契約禁止処分とし、同県警に告訴した。岡山弁護士会も同年8月、2年間の業務停止処分としていた。


 黒瀬弁護士は91年に大学助教授から副検事になり、95年に検事に任官。退官後の00年に弁護士登録した。
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 政治家も何かと悪く言われる職業だが、弁護士もまた、何かにつけて悪く言われる職業の一つである。この様な事件があると必ず「悪徳弁護士」のような言われ方をする。
 何も私は、この事件の容疑者を擁護する立場にはない。ただ国選弁護報酬には、根本的な問題があることを指摘しておかなければならない。


 簡単に言えば、報酬が安すぎるのだ。


 この事件とて、報酬が安いが故に起こってしまった事件と言えなくもない。
 実際に弁護士に聞いた話だが、国選弁護報酬は簡単にいくらとは言えない。そこには複雑な計算式があって、それによって決まるので、複雑すぎて一概にいくらとはいえないそうだ。ただし、安いことは事実らしい。
 その証拠に、現状において、国選弁護人を引き受けた弁護士が、被疑者に対する公判開始までの接見が、精々1回か2回だという。それ以上、会ったところで持ち出しになるばかりで、お金を得るという意味での生業にはならない。刑事事件における国選弁護の仕事は、各弁護士によるボランティア精神で運営されている事業であって、とてもまともな仕事とは言えない。
 事実、この日本に、国選弁護人だけで食べている弁護士がいない。そう私は断言できる。それほど過酷であり、持ち出しとなる経費は多いし、報酬が少ない仕事なのだ。だれもやり手がいないのもうなずける。または職にあぶれた、能力の低い弁護士しかやりたがらないという傾向もある。
 能力が低く、意欲も劣る弁護士が、ただ日銭を稼ぐためだけに形式的に働くのであれば、被疑者の権利は保証されない。巨大な組織である警察と検察が有利、弁護士が不利の構図は、ここにも見られるのだ。これもまた、裁判における冤罪発生の温床となっている。
 さらに国選弁護人として、凶悪犯罪容疑の被告を弁護することにでもなれば、一生懸命仕事をすればするほど、「何でそんな奴の弁護をするのだ」という心ない世論を敵に回すリスクも引き受けることになる。弁護士経歴に傷がつきやすいことや、メディアバッシングの恐れがあること、弁護士報酬がほとんど期待できないことなどから、引き受ける弁護士が僅少である。そのため、凶悪事件の受任が特定の弁護士に集中していることが問題視されている。
 光市母子殺害事件の主任弁護士となった安田好弘弁護士などは、そのような弁護士の代表である。安田弁護士のような人がいるからこそ、公判が成立する現実に国家がもっと強い関心を持たなければならない。個人の正義感やボランティア精神によって支えられる国の制度とは、もうそれを制度とは呼べない。生業として成り立たない業務が、制度に組み込まれていることは、本来あってはならない。何故そうなるかと言えば、その分野に国家が充分な税金を使っていないからである。

 それと弁護士業務が一番大変なのは、地裁レベルにおける一番最初の公判を行うときである。全ての書類を作成し、公判に望む弁護士が大変だというのに、弁護士報酬は少ないという。それに比べ、それほど働かなくても済んでしまう、高裁、最高裁における国選弁護報酬は高くなっていくという。これまさに、現場の苦労を知らない官僚が作った制度そのものであろう。


 真に金儲けしたくて弁護士になったのであれば、刑事事件などを行うなど、貧乏くじを引くようなものであって、手を付けない方がいい。離婚と相続を中心にした民事事件だけを行っていれば、どれだけ弁護士としては楽なことか。
 しかし、それなりの社会的使命感をもって仕事をしている弁護士はいる。刑事事件を担当する弁護士は、世の中になくてはならない存在である。彼らに対して、社会がそれなりの報酬を支払うことが制度として必要なことは言うまでもない。


 国会には、弁護士出身の代議士が多くいるというのに、この様な話はトンと聞いたことがない。是非、現場で刑事事件を担当して頑張っている国選弁護人にも、普通の生活ができるだけの報酬を国費として支払うような制度改正が必要であろう。


2010年03月01日