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日刊田中けん

バイオ燃料を巡る大いなる事実誤認

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】夢のサトウキビ、バイオ燃料5倍 アサヒが新品種
2010.4.18 12:00 産経ニュースより


 環境に優しい自動車燃料「バイオエタノール」の原料となる夢の作物が誕生した。アサヒビールと農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が開発に成功した新種のサトウキビは、「耕作地面積当たりで従来より5倍以上のバイオエタノールの生産が見込める」という。5月に品種登録を出願する。今後2年間にわたって鹿児島県の種子島で実証実験を進め、実用化を急ぐ。
 アサヒが開発したのは「砂糖・エタノール複合製造プロセス」と呼ぶ技術。新品種のサトウキビは育成スピードが従来品種の2倍。発酵条件を工夫し、バイオエタノールの大規模製造設備を導入した場合の歩留まりも2倍に向上した。
 同社の実証実験では、エタノール生産量は導入前の5倍以上の年間4400キロリットルとなり、二酸化炭素(CO2)削減効果は従来に比べ57倍にのぼったとしている。
 さらに、この新品種はエタノールの原料となる「茎」が従来の1.5倍、砂糖になる「糖」の収量が1.3倍になる。茎はバイオエタノールの原料とし、糖は砂糖にするため、従来の砂糖生産量を維持したままバイオエタノールを製造できる。
 バイオエタノールは、植物などを原料としてつくられるアルコール。植物は生育過程の光合成でCO2を吸収するため、燃料として燃やしてもCO2を排出しないと見なされる。このため、原油価格が暴騰した08年に世界的に注目を集め米国などで増産が進んだが、需要増大により原料のトウモロコシ価格が高騰し、世界の食料事情に影響を及ぼすという問題が浮上するなど課題も残した。
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 この様な技術は、日本が未来に生き残っていくためには、とても必要な技術だ。日本の成長戦略の一環として、国は大いに、この様な技術に対して支援していくべきであろう。
 これだけならば、この日記は、この様な新技術の紹介文のみになってしまう だろうが、そうではない。


 私が事実誤認として指摘したいのは、引用した記事の最後の部分。
>原油価格が暴騰した08年に世界的に注目を集め米国などで増産が進んだが、需要増大により原料のトウモロコシ価格が高騰し、世界の食料事情に影響を及ぼすという問題が浮上するなど課題も残した。
 ここに関してだ。


 確かに08年、トウモロコシや大豆の穀物相場は、「史上最高値更新」をしていた。
 しかし、それの米国独立記念日(7/4)までのこと。週明けの7月7日には、寄りつきから相場は大暴落した。シカゴ市場、トウモロコシと大豆はストップ安。この現象を、短期の調整売りだと考えた投資家もいた。食糧不足やバイオ燃料としての需要拡大路線という基礎的条件は変わっていない。だから、またすぐに相場は値上がりするだろうと予想したのだ。
 しかし、事実は、その後も売り圧力は収まらなかった。約1ヶ月後の8月11日には、下落開始前に比べて、トウモロコシが33%、大豆が27%、小麦が9%下落した。
 8月中旬以降になると、「売られすぎ感」と「トウモロコシ、大豆の不作」などの要因により、弱気一色だった市場に強気論も台頭して、多少落ち着いてきた。それでも値上がりしたり、値下がりしたりの調整局面だった。
 それも9月15日にリーマン・ブラザース破綻の報道によって、事態は一変する。買い方が一斉に逃げ始め、穀物相場は再び下落した。12月上旬、対7月3日比較で言うと、トウモロコシが61%、大豆が53%、小麦が42%下落した。約2年半前の上昇相場が始まる以前の水準の底値になるまで要した時間は、下落開始から約5ヶ月だった。
 つまり、トウモロコシ相場が値上がりした理由の1つが、バイオ燃料への期待感であったことは事実であろうが、それはあくまでも数ある相場要因のたった一つに過ぎず、相場とは、「事実と誤解と誇張」の玉石混合によって、上にも下にも動くのである。


「トウモロコシ相場は、バイオ燃料としてトウモロコシが期待されたので値上がりした」


 この命題を多くの人たちが、素直に信じてしまったわけだが、この中に、どれだけの「事実と誤解と誇張」が含まれているのか、じっくり検証する必要があるのだ。


 穀物相場が上昇し始めた06年から08年までの間、トウモロコシ、大豆、小麦の在庫は、それほど変わっていない。世界的に見ても、食糧不足と言うことはなかった。世界で局所的に発生した暴動などは、食料その物が無くなって起きたのではなく、食料の値段が高くなってしまったので、買える量が少なくなったために起きたものだった。
 穀物相場の上昇を演出した主役は膨大なる投機資金である。その証拠に、9月のリーマン・ブラザース破綻後は、投機資金が市場から逃げると同時に、穀物相場も大幅に下落している。本当に、需給ギャップから、食糧不足が事実としてあるならば、市場から余剰資金が逃げようとも、穀物相場の高値安定は続いていただろうが、事実はそうならず相場は大暴落した。よって、一時的な穀物相場値上がりの主役(=犯人)は、余剰資金だと結論づけることができる。


 世界には休耕地が余っている。なぜ休耕地があるかと言えば、これ以上、穀物相場が値下がりしては、生産者としては儲からないからである。儲からないので作らない。儲かるならば作るのである。
 休耕地/休耕地+栽培面積、世界における休耕地の割合は、以下の通りだ。
 北米で42%
 豪州周辺で51%
 欧州で26%
 短期的な穀物相場の値上がり局面はあるにせよ、世界中に休耕地がこれだけ多いのだ。相場が値上がりして、儲かるとなれば、休耕地はすぐに耕作地へと変化する。前述したように、倉庫にも穀物は安定して、貯蔵されている。人間の食料と需要が重なるにしろ、休耕地中心にトウモロコシのようなバイオ燃料の元となる植物を栽培したとしても、人間が口にする食物の栽培面積が足りなくなることは、まずない。
 むしろ、世界の農家には、将来的な需要が見込めるのだから、安定した収入源となるバイオ燃料としての植物を積極的に作ってもらうことがよい。その方が、作物単価の下落要因になり、穀物相場は安定することだろう。自然によって作られるエタノール技術によって、世界の農家は、大いなる富を世界中に分け与えることができる可能性を持っている。


 バイオ燃料となる食物の存在が、世界の食料事情に影響を与えるなど単なる杞憂に過ぎない。
【参考文献:日本の食料戦略と商社】


2010年04月20日